柿本人麻呂の代表歌

『万葉集』第一の歌人といわれ、その、枕詞や序詞などを駆使した格調高い歌風から、
「山柿之門」とも「うたのひじり」とも称された柿本人麻呂は、万葉集だけで長歌19首・
短歌75首の歌を残し、その範囲は羇旅の歌、賛歌・挽歌、相聞歌など幅が広い。その
全貌の把握は容易ではないので、筆者が特に秀歌(と思う歌)をいくつか選んでみた。

柿本朝臣人麻呂の羇旅の歌
玉藻刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて夏草の野島の崎に舟近づきぬ(3-250)

ともしびの明石大門(おほと)に入らむ日や榜(こ)ぎ別れなむ家のあたり見ず(3-254)
天離(あまざか)る夷(ひな)の長道(ながち)ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ (3-255)

写真1:明石海峡大橋の夕陽
引用先:http://kotukotuyama4.blog.so-net.ne.jp/2016-12-31


図1:明石海峡付近のマップ(GoogleMapを縮小・加工)
柿本朝臣人麻呂、近江の国より上り来る時に、宇治川の辺に至りて作る歌
もののふの八十(やそ)宇治川の網代木(あじろぎ)にいさよふ波の行くへ知らずも (3-264)

柿本朝臣人麻呂の歌一首
淡海(あふみ)の海(うみ)夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ (3-266)

近江の荒れたる都を過ぐる時に、柿本朝臣人麻呂の作る歌
楽浪(ささなみ)の志賀の辛崎(からさき)さきくあれど大宮人の船待ちかねつ(1-30)

楽浪(ささなみ)の志賀の大曲(おほわだ)淀むとも昔の人にまたも逢はめやも(1-31)

写真2:琵琶湖の夕暮れ
引用先:http://hiroshi88.blog56.fc2.com/blog-entry-21.html 風景写真ブログ


図2:琵琶湖宇治川マップ(GoogleMapを縮小・加工)
軽皇子、安騎の野に宿ります時に、柿本朝臣人麻呂の作る歌
安騎の野に宿る旅人うち靡きいも寝らめやもいにしへ思ふに(1-46)

ま草刈る荒野にはあれど黄葉(もみじば)の過ぎにし君が形見とぞ来(こ)し(1-47)

東(ひむがし)の野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(1-48)

写真3:安騎野の夜霧
引用先:http://smokelife2009.blog.fc2.com/blog-entry-202.html


図3:安騎野周辺マップ(GoogleMapを縮小・加工)
柿本朝臣人麻呂、石見の国より妻に別れて上り来る時の歌
石見の海角(つの)の浦廻(うらみ)を浦なしと人こそ見らめ潟なしと
人こそ見らめよしゑやし浦はなくともよしゑやし潟はなくともいさなとり
海辺を指して和田津(にきたづ)の荒磯の上にか青く生(お)ふる玉藻沖つ藻
朝羽振る風こそ寄せめ夕羽振る波こそ来寄れ波の共(むた)か寄りかく寄る
玉藻なす寄り寝し妹を露霜の置きてし来ればこの道の八十隈ごとによろづたび
かへり見すれどいや遠に里は離(さか)りぬいや高に山も越え来ぬ夏草の
思ひ萎(しな)えて偲ふらむ妹が門見む靡けこの山(2-131)

反歌二首
石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか(2-132)

小竹の葉はみ山もさやにさやげども我は妹思ふ別れ来ぬれば(2-133)

写真4:石見の海(益田海岸)
引用先:https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/bsignal/10_vol_133/issue/01.html 西日本万葉の旅


図4:角の浦、角の里周辺マップ(GoogleMapを縮小・加工)
あとがき

柿本人麻呂が宮廷歌人として活躍したのは、持統三年(689)頃から
宝元年(701)の文武天皇紀伊国行幸までの十数年間である。人麻呂
の生年が大化元年(645)前後と推定されているので、年齢的には45歳
から55歳前後の熟年時代に当たり、藤原京を建設した持統天皇の全盛
時代に相当する。
それ以降は、下命を受けて讃岐や太宰府、そして石見に長く滞在し、
最後は益田市の沖にあった鴨島で、次のような辞世の歌を残して死んだ
とされる。刑死という説もあるが不詳である。
柿本朝臣人麻呂が石見の国で死に臨んだ時、自らを傷んで作る歌
鴨山の岩根しまける我れをかも
知らにと妹が待ちつつあるらむ(2-223)

なお人麻呂の歌として有名な一首は、百人一首にある次の歌だが、
万葉集では「詠み人知らず」としており、人麻呂の作品である可能性は低い。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む 


引用参照文献
  以上の説明文や歌の記述については以下の文献を参照した。
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/
sennin/hitomaro2_t.html 千人万首 柿本人麻呂

https://ja.wikipedia.org/wiki/柿本人麻呂

http://www.katakago.info/library/kikaku/01haru-hitomaro/kashin/
daihyou.htm 人麻呂の代表作は?


柿本人麻呂の歌とゆかりの地に戻る


図5:柿本人麻呂(歌川国芳画)
引用先:https://ja.wikipedia.org/wiki/柿本人麻呂